物件見学の果てに

以前、賃貸不動産の仕事をしていたときの、あることを思い出しました。

毎日いろんな間取り図面を見ては、とにかく実際にそこへ足を運び、
自分の目で見て情報を集めてくることをやっていました。
建物の造りや部屋の中を、詳細にチェックするのはあたり前ですが、
そこに住む人たちの何となくの雰囲気(家族構成とか)、
駐車場の広さ、道路の車の往来、周辺の雑草とかゴミ、共有スペースの使い方、騒音(やばい人がいないか)、
他にも食料調達の利便性、ゴミ出し場所までの距離、近くのバス停や病院等々、情報をとにかくかき集めました。
そうやって、お客様の希望する条件に少しでも見合った物件を案内できるようにするのが仕事でした。

しかし、どんなに条件に近いものを案内しても、
また違うこだわりポイントが出てくるのです(見学するたびにわからなくなっていく様子)。
どちらかというと、そういう方の方が多かった。
それでも、物件がその方を選んでいるかのように(あなたを待っていました、という感じで)、決まるときは早い。
私の、数々の情報とアドバイスが、ほとんど不要だったというくらい、部屋に入ってすぐ・・・ということがあります。

「あー、なんかここ、いいですね」

なんか落ち着く、なんか良さそう、なんかほっとする、
というその方だけが感じる、『直感』というものが出たときです(「なんかね~」が頭に付く)。
あれだけのこだわりポイントがあったのにもかかわらず、
今までの条件は一体何だったんだと思うほど、その場所が、部屋の空気が、匂いが、空間が、
気に入ってしまった・・・ということ。
こういう出会いを見るのは、
その方の本来の姿というか、本当はこんな暮らしがしたいんだ(こんな人生をスタートさせたいんだ)、
という気持ちを垣間見たようで、とてもうれしくなってしまうものでした。

この、直感で選ぶとうまくいく、という感覚は、あの頃から教えられていたのかもしれません。
これからも、頭の中をいっぱいにしすぎてしまわないように、
「なんか、いい」っていう感覚を見逃さないように生活していきたいです。










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